番いの帰郷についていく。(4)

「番いの帰郷についていく。」第四話です。
　ここらで、一度小休止の幕間に続きます。
　公女の帰郷に長いものを考えていたワケではなかったのですが、流れ上なんか一波乱あったほうがいいかと思って、少しきな臭い話を入れる予定です。
　四話まではそんな素振りひとつもないのですが(^^ゞ

　以下、「番いの帰郷についていく」4。
　婚約者同士のケンカは犬も喰わない……という流れです（←そうか？）
　この二人は口で話すよりも目で話すタイプかなあ？　と思っています。魔族の彼からすると、不穏で仕方ないと思います。

――　番いの帰郷についていく。(4)　――

　「初めまして」と型どおりの挨拶を繰り出した隣国の王族という彼と、彼に嫁入りする予定のリリカは人目も憚らずにベタベタしている。
「浮気なんて酷いですわ、レイモンドさま」
「ああ、すまない。君より可愛い娘はいないに決まっているよね」
　にこやかな二人の会話は砂糖菓子のように甘い。アハハウフフと婚約中の二人が微笑み合う姿はひどく「絵」になっていて、ただ見ているだけなのに胸焼けしそうだ。
「……エリル様」
「何じゃ？」
　ほぼ同じ背丈の目線で上目遣いをするシエンに、察した様子の彼女が口角を上げて応じる。
　告げていいのか、あっちにフラフラこっちにフラフラと視線を泳がせていると、そっとエリルが囁いた。
「奇妙な光景に見えるじゃろうが、リリカは基本こういう娘なのだ。天の邪鬼というか、のう？」
「………」
　そうなのか……と納得しつつも、甘い砂糖菓子の会話から漂う殺伐とした空気に肌がパシパシと反応を示す。
　魔族は基本的に好き嫌いがはっきりしている。嫌いな対象に対して媚びを売ることはあまりないし、好きな相手には明快な好意を示すものだ。だから、こういう複雑な（好意なのか嫌悪なのか？　はっきりしない曖昧な？）状況には慣れていない。
「しかし。リリカと同じような人間が他にもいようとは……面倒臭い御仁よ。のう？」
「………」
　なるほど、とさらに納得して、コクコクと頷いた。
　端々に殺伐とした応酬を感じながら、この婚約者同士という二人は存外にお似合い、というヤツなのだろう。
（早くどっちかの感情に定まればいいのに……）
　と、居心地悪く思う。

「なんですの？　おねえさま」
「いや。なんでもない……そなたと相性の良さそうな御仁じゃな？」

　サラリと真っ直ぐで長い艶やかな黒髪を肩から流して小首を傾け、エリルがニッコリと微笑んだ。異性をたぶらかすのに長けたそれは、たまに彼女が使うひどく清楚な仮面である。
　リリカの婚約者である彼が口笛を吹いて、シエンはあまりのショックにそこからの記憶がなくなった。

　　>>>幕間に続きます。