番いの帰郷についていく。(1)

　ようやく目処がついたので、「魔宮にて」の続きを連載します。
　タイトルは「番いの帰郷についていく」です。
　当初考えていた話では、このタイトルだけで帰郷の話は終わるつもり……だったのですが、どうも終わらないということが判明しました。
　考えていたエピソードだけでは落ち着かない（色々と）ので、諦めてもうちょいエピソードを足すことに。
　とりあえず、「番いの帰郷についていく」とそのあとの閑話小話を挟んで、少し長めの滞在となる模様です。
　魔族の彼からすれば、早く帰りたいんだとは思うんですけどねー(^^ゞ

　以下、「番いの帰郷についていく」1。
　魔族の彼視点でお送りします。ハロウィーン間近という時期ですが、ほとんど魔族は出てきません。というか、登場しても空気です(苦笑)。

――　番いの帰郷についていく。(1)　――

「おっねえさまぁぁぁっ！」

　広大な面積をもつそこに入った瞬間、見知らぬ影がやってきて彼の番〔つが〕いに抱きついた。
　その稀に聞く大音声に、シエンは（自分のテリトリーではない世界にあるという緊張感もあいまって）体を強ばらせる。神経はずっと高ぶったままなので、下がりようもない。
　が。
　番いであるエリルが宥めるようにこっちを見て、「気にするでない。これはいつも、こうなのだ」と、うっそりと微笑んでみせた。

（そ、そうなんだ……コッチのセカイ、こわいトコ。ウチに帰って、いいデスカ？……って、ダメダメ。耐えなくちゃ……）

「　………　」
　頭からすっぽりと外套を目深に被り、エリルにくっついてなにやら訴えかけている騒がしいだけの生き物（たぶん、雌の子）をジッと観察した。彼女から引きはがしたいのは山々だけれど、今は大人しくしておくことにする。
（たぶん、身内――だよね？）
　匂いが彼女と同じだから……それに雌だし、我慢我慢。
　そんな中、見知らぬ彼女と目が合って、「あっ！」と声を上げた。
「そうでしたわ！　今日はおねえさまのお相手がいらっしゃるのね。この方？　それともあちらの長身の方？　こちらの方はとても可愛らしい感じね……まぁぁ！」
　まじまじと眺められ、ジリジリと後退る。
　エリルが前に進み出て、背中に庇ってくれた。
「あまり見るでない。此奴〔こやつ〕は妾のものじゃ、減るであろうが。見るなら彼奴〔あやつ〕を好きなだけ見るがいい」
　そう言って示したのは、後方に居た長身の男とその片腕に抱えられた小柄な（見た目は）少女だった。
　なるほどなるほど、と納得顔になったエリルの身内らしい彼女は微笑んだ。
「お話は中で。叔父様も叔母様もお待ちになっておりますわぁ、シエン様。それにあちらが身元引受人のキース侯爵様と侯爵夫人ねっ！　お噂はかねがねお聞きしておりましてよ」
　うふふ、と笑ってエリルの腕に腕を絡めると、シエンに対してウィンクした。
（ひっ！）
　独占欲に不穏な気配を漂わせていた彼はビクリとなって、目を泳がせた。

　　>>>続きます。
　これくらいの長さで、あと三回くらい続きます～。