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裏表一体、日々のこと。
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 年の瀬に挨拶ついでに、小話投下です。
 大掃除やら年末進行とか慌ただしい時候ではありますが、季節とまったく関係のない小話を書いてしまったので、出しておきます。
 ネタとしては、「魔法使いはかく語りき」の王様とお妃様のお話です。
 この二人のなれそめのお話。
 お妃様視点ですが、王様視点がないと意味不明になる感じに仕上がりました。
 今のところ、王様視点はありませんが……書いたら長くなるか、短くなるかの両極端のような気がします。

 以下、「王様とお妃様のなれそめ」前編。
 後編は明日か、明後日か。年の瀬の挨拶と年始の挨拶ができるくらいのタイミングに出したいと思っています。







―― 王様とお妃様のなれそめ(前) ――

 とある国の王様とお妃様に同じ事を問うてみる。
 王様は黙して語らず、お妃様は恥ずかしそうに頬を染める。そして、仰るのだ。
「なぜかしら? 私にもよく分からないの……お妃候補に選ばれた時はちょっとした社会見学みたいな感じで家族には送り出されたんだけど」
 首を傾げて不思議がる。
 あれよあれよという内に王太子妃におさまっていたそうだ。



 お妃様、は田舎の小国の末姫だった。
 父親は小さな国の王様で、母親はそのお妃様。側室や愛妾はおらず、子供は六人。
 男の子が五人、女の子が一人。
 そのたった一人の女の子がのちのお妃様となるお姫様である。
 ある時、隣国ではないけれど遠くもない大きな国の第一王子が年頃になり、近くの国のお姫様にお触れを出した。お嫁さんを応募するので該当するお姫様はもれなく舞踏会に来るように、と。
 小さな田舎の小国、とはいえ国は国。社交辞令なのか、どうなのか、招待状が届いた。
 十四歳になったばかりのお妃様、改めお姫様は両親に呼ばれ「まあ、たぶん社交辞令だから気楽に挨拶だけしてきなさい」と彼女に言った。
 上から三番目の兄も同行するとのことだったので、ほんの小旅行程度の感覚で生まれて初めて国から出たお姫様は大きな国の都に入って目を瞬いた。
 土ではない道には人工的な固い石がはめ込まれて、馬車がほとんど揺れなくなった。
 小高い丘の上の高い塀の向こうに、立派なお城がそびえる。
 お姫様の住んでいるお城とは、大きさも品格も違った。なにしろお姫様の住むお城は果樹園の奥にこじんまりと建っている少し立派なお家……という程度。
 臣下もいるが、風体は農夫に近い。
 ちなみに特産品はオレンジだ。蜂蜜も有名で、ジャムにして一緒に売り出したりしている。
 大きな国のお城に入って案内された客室は、お姫様の自分の部屋より広い部屋だった。ベッドも立派で天蓋がついている。お姫様気分を味わえる、ならよかったが残念なことにお姫様は落ち着かなかった。
 同行した兄も狼狽えていて、どうしようどうしようと二人で手を取り合いあわあわする。
 まあ、たぶん、こんな立派な国の王子様に選ばれるなんてないだろうし……できるだけ、ひっそり、目立たないようにするしかない……と二人で額をコツンとつけて頷き合う。
 目立たないように、失敗しないようにする。
「そんなこと、できると思う? お兄様」
「……う。まあ、やるしかない。頑張れ」
 丸投げされた妹は兄を情けなく見返したけれど、どんなにない知恵を絞ってもそれ以上の妙案は二人から出なかった。

 煌びやかな宴の夜。
 目立たないようにするにしても、お姫様の持参した余所行きドレスは地味すぎた。逆に目立つ、というか、辺りのおそらくは同様に招待された花嫁候補のお姫様たちが給仕の娘と間違えてお姫様を呼びつけては飲み物やら椅子などを所望する。
 あっちにパタパタ、こっちにパタパタ。なかなかに忙しい。
「こっちよ、こっち。……あら? ちょっと温いわ。氷はないの?」
「え? あ、そうですよね。申し訳ありません。すぐにお持ちします」
 頭を下げて、お姫様はかいがいしくも働いた。
 自分も招待客だとは、もう頭からすっぽりと抜けていた。むしろ、目立たないようにビクビクしているよりは給仕をして動いているほうが気分が楽な分、精神的にはよかったと言える。
「すみません、氷を」
 何度も行き来している間に、顔馴染みになった給仕の男性に声をかけると、そこには長身の若い男の人が立っていて、給仕の彼と何やら話をしていた様子。
「あっ、お話し中でした? ごめんなさいっ」
 くるり、と踵を返すとガシリと肩を掴まれた。
「ひっ!」
「どういうことだ?」
 と、彼は低く呟いた。
 給仕の男性に視線を投げて、咎めるように訊く。
「招待客の姫君に何をさせている?」
 戸惑ったあとに真っ青になった給仕の男性に、お姫様は慌てた。なんだか、ものすごく大変なことになっている?
 若い男の人は偉い人で、招待客の私が給仕の真似をしていたから、給仕の責任者らしい男性を怒っているらしい。
「あ、あのっ、その方はわ、悪く、ありません。給仕みたいな格好をしているわたしが悪いんです! 怒らないで!!」
 涙目で訴えたお姫様は若い男を見上げ、(あら? 素敵な人だわ。こんな方がお兄様だったら毎日目の保養だわね)と存外実の兄に失礼で、案外のんびりとした感想をその人にむけて持っていた。

  >>>後編に続く。

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