幕間・それぞれの寝室事情。(前)

幕間です。
　「番いの帰郷についていく。」の途中ですが、ここで少し小話（？）。
　何気にイチャイチャするカップルを書いてみました！
　私の書くカップルはみんな、こんな感じですよー。

　以下、「幕間・それぞれの寝室事情」前編。
　後編は、あちらのカップルです。もう一方の新婚夫婦は限度を知らないので、ブログでは載せないことにしました。さて、火の目を見ることがあるのでしょうか……ねぇ？

――　幕間・それぞれの寝室事情。(前)　――

　ハッ！　と気がついた時には夜だった。

　天蓋付きのベッドと重厚な感じの調度品、いつもシエンが使っているものとは趣がまったく異なっている。シエンの屋敷にある調度品はどれも年期の入った古めかしいものが多く、いわゆる埃を被ったアンティークに近い。けれど、番いの生家である城にあるそれはまだ新しく、しかも毎日手入れをされているから手垢もついていないほど清潔である。
　ふかふかの布団の上に座り、居心地悪く見渡した。
　すぐそばには番いであるエリルの黒曜の瞳が輝いている。
　けれど、膝に乗った彼女と視線を合わせるのが厭で目をそらす。
（ひどい、酷い！　あんまりだっ！！）

「拗ねるな」

　彼女はシエンの不機嫌の理由を正確に把握している。
「無理です。エリル様は僕の番いなのに……他の雄を」
「ふん。少し邪魔じゃと思ったのでな――リリカとあの男、纏まれば少しは静かになるのでは？」
「……よく、わかりません」
　邪魔は邪魔だと思うけれど……そう言えば、あのエリルの従姉妹という雌の子が先ほどここまで来て何か訴えていたような気がする。ほとんど意識を閉じていたため、その内容までは覚えていないが。
　不意に膝に乗った彼女がぐいっとシエンの頬を両手のひらで挟んで、瞳を合わせてきた。
　獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべて、赤い唇をシエンに重ねてくる。
「妾だって拗ねたいのだ。そなたは繊細ゆえ……」
「　？　」
　首を傾げた時、強く肩を押され押し倒されたのだと分かる。まあ、よくあることなので驚きはしなかった。
　ただ、少し困った。
「あ、あの……エリル様」
「ムゥ、やはり駄目か」
　そう残念そうに呟かれて、そこから手を退いた。巣ではない場所で繁殖行為をするのはシエンにとってかなりの難題である。下準備と覚悟、そして 勢い がいる。しかも、今は番いの親が近くにいる気まずい状況であり、慣れ親しんだ魔の臭気も薄い。異界に居ると肌で感じるがゆえに、まぐわいに応じる心身の余裕がなかった。
「すみません……」
　不甲斐なさを露呈したことに項垂れ、仰向けに寝転んだまま目を閉じる。
　熱い瞼に焼き付けた彼女の姿は、美しいお姫様だった。白くて（肌の色や形がなんとなく分かるくらい）薄い、やわらかな夜着に包まれた誘惑にその気になりたいのは山々だ。
　本来なら、三日三晩励んでいる！
　だというのに、シエンは彼女に見合うほどの猛々しい雄ではなかった。ぼ、僕の意気地なしっ！！
「仕方がないのう」
　温かな指先が頬を撫で、瞼を上げればすぐそばにエリルも寝そべって身を寄せてきた。
　うっそりと蠱惑の微笑を浮かべた赤い唇がやってきて、「これで許す」と口づける。
　シエンは縋るように彼女の細い腰を抱き寄せ、吐息を貪る。

（エリル様、エリルさま――愛しています）

　深く繋がることはせずに、ただ寝台の上で布団に潜り――長い間、互いに啄〔ついば〕むキスを繰り返した。

　　>>>後編に続きます。