君を、きっと、好きになる。2.5-桜

　「君を、きっと、好きになる。」桜視点の続き。
　短い、小話として書いていたのですが……収拾がつきそうになく、今回のネタはしばらく引き摺りそうです。
　おかしい、そんな大袈裟なネタのつもりじゃなかったのに。
　水面下でジワジワを目指していたのが、思いっきり表面化しちゃった感じです(^^ゞ

　以下、「君を、きっと、好きになる。」2.5-桜。
　次は彼視点に移り、そのあとまた彼女視点に戻る予定です。
　どの視点も短いです。同じ場面でコロコロ視点が変わってるだけなので。

――　君を、きっと、好きになる。2.5-桜　――

（　なんで、触らなかったのかしら？　）

　数日経っても、葉山桜〔はやま　さくら〕の心の内からその疑問は消えなかった。どころか、さらに深みにはまってしまって、気になって気になって仕方がない。
　もともと、お付き合いしている彼（一度別れを告げられながら、奇跡的に関係が復活した）・梁瀬陽一〔やなせ　よういち〕の考えていることは桜には理解不能で、しばしば途方に暮れるのだが……今回もまた、途方に暮れている。
　つかみ所のない「存在」というのは、確かに「居る」のだと認めざるをえない。
　あの時、胸を触って欲しかったワケではないけれど……ううん、本当は少し……望んでいたのかしら？　あら、まあ。
　ポッ、と頬が熱くなって両手で覆う。
（わたしってば、はしたないわ。一回しかしていないのに……ああ、でも。一回しか彼に手を出してもらえてないってコトだもの、触れ合いを望むのは種の保存・野生の本能でいけば道理よね？）
　好きな雄の遺伝子を欲しいと願うのは、雌の本能にちがいない。
　うんうん、と頷きながら、ポッポポッポと体が熱くなる。
「どうしたの？」
　と、隣にいた彼に訊かれて、困ってしまう。
「な、なんでもない」
　ぷるぷると首を振り、とりあえず誤魔化してはみたものの怪訝に見られたのは嘘が下手な証拠だ。
「……触りたく、ないのかな？」
「え？」
「ううん。雌豹になろうと思ったの、いま」
　彼に訊いて、すんなり「そうだよ」とか笑顔付きで肯定されようものなら奈落の底に落ちてしまう、きっと……と気弱になって、別の方法を試みる。
　ギュッ、と繋いだ手をそのままに腕を絡めてみると、驚いた目がこちらを見下ろしていた。
「めひょう？」

「　うん。雌豹は、キライ？　」
「……とりあえず、訊くけど――何、するの？」

「………」
　よく、考えていなかった。
　手は、繋いでいるし……。
　ジッ、と隣を歩く彼を見つめて「キス？」と答えてみる。
　くすり、と笑った彼が、「いいよ」と言って立ち止まり目を瞑った。しやすいように、心持ち屈んでくれるけれど。

（えぇぇ？！　い、いま、ここで、するの？　わたしから？）

　往来のど真ん中で、桜は自分から言い出したことなのに――激しく動揺していた。

　　>>>陽一視点に続きます。