君を、きっと、好きになる。1-桜

　「君を、きっと、好きになる。」続き、彼女視点です。
　彼女の視点の話を書くと、軽くボケるせいかコメディ色が強くなる……気がします。気のせいかも、しれません。だと、いいな！
　この場面を書く前に、彼女っぽいなあと思う歌詞が某歌にありまして、それが元になって今回の話が出来ています。早く彼女の家族を出せるくらいまで話が進めばいいのですが、道のりは遠いです。気長に行くべ。

　以下、「君を、きっと、好きになる。」1-桜。
　彼女はじつは、○フェチの面食いだと思います。面食いなのは、家族が全員美形なせいです。自分も平凡だと思っているくらいなので、好みの顔には食いつきが違います。たぶん。

――　君を、きっと、好きになる。1-桜　――

　最近、やけに男の人から声をかけられる。「付き合わない？」とか「遊ぼうよ」とか、「慰めてあげるよ」だとか。
　彼でなければ、まったく意味がないのに――ね。ザンネン。
　執拗な誘い〔それ〕に（困ったなあ……）と思っていると、急に手首を掴まれた。
（　わたし、幻覚まで視るようになった？　）
　葉山桜〔はやま　さくら〕が振り返ると、梁瀬陽一〔やなせ　よういち〕がいて……かなり怒っているのが見ただけでわかる。ギリッ、と掴まれたところが痛い。
「……いたい？」
　って、あれ？　これ、幻覚じゃないの？
「付き合って」
　低く告げられた言葉に、「どこに？」と問う前に腕を引かれて往来のある廊下は騒然となった。けれど、桜の耳に届いたのは彼の声だけで、他は意味をなさない。

　最初に好きになったのは、この声。そして、目が離せなくなる――綺麗な顔。

　ぼんやりと見上げ、今ならジッと眺めていてもたぶん咎められないだろうと思い、存分にその不機嫌な横顔を堪能する。
　彼の足がようやく止まり、人影のない屋上に出た時、目が合ってハッとする。
（あっ！　見ちゃダメっ）
　慌てて俯いたのに、彼はそれを許さずに顎を掴んで顔をまた上げさせる。
「顔を合わせない、ってどういうこと？」
「え？　あ……あの、不快にさせちゃダメだと思って」
「不快？　なんでそう思うの？」
　声が冷たい。悲しくなる。
「別れたから。別れた相手から見られるのって不快でしょ？　重いよね？」
　ごめんなさい、と瞼を伏せて謝ろうとしたら遮られた。
　彼の苛立った声で。
「なにソレ？　僕のこと不快だってコト？　重いって？」
「え？　な、違うよっ。全然……わたしが梁瀬くんを見るのと、梁瀬くんがわたしを見るのとじゃ……違うでしょ？」
「……どこが？」

「わたしは、梁瀬くんを好きだけど、梁瀬くんはわたしを好きじゃないもの」

　悲しいけれど本当のことを答えたら、彼は軽く息を呑んで「――参った」と顎を捉えていた手を離して代わりに両肩を掴んだ。驚いて目を上げ、そこにある顔に唖然とする。
　彼は顔を背けていたけれど、耳朶は真っ赤になっていて顔も少なからずそれに近いのだろうと予想させた。
「梁瀬くん？」
「だから、僕はこういうの柄じゃないんだ。葉山さん」
　少し睨むみたいに目だけをこちらに向けて、彼は言った。
「うん？」
　よく意味が理解できなくて首を傾げると、掴まれていた肩を引き寄せられ、遅れて彼に抱き寄せられたのだと気付く。
（あれ？）
「僕は、君に縋られると断れない。だから、縋って」
　どこか上から言うように告げながら、そのじつ切実に願うみたいな声が響いて桜はとっさに動いていた。
　彼の背中に腕を廻して、顔を上げる。
「　陽一くん、好き　」
　スリ、と頬をその胸に擦りよせる。

「別れたく、ない……」


（――そういえば、最近よく眠れていなかった。気持ち、いいな）

　きつく抱きしめられた胸の中で、「さくら」と呼ぶ声が聞こえたような気がした。

　　>>>陽一視点に続きます。