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裏表一体、日々のこと。
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 「不完全近隣系図」の第十一回です。
 愛美視点、の過去話です。なので、痛い(当社比)内容になってます。
 この話を考えた時、この天然のほほん娘の家族構成はほぼ確定していたのですが……あんまり掘り下げたくなかったので、詳しくは決まっていないことになってます。
 考えれば考えるほど、こういう家庭環境というのは悲しいなあと思います。他人はなかなか介入できませんし、親というのは尊い存在だと思うのと同時に恐ろしい存在だな、と思います。
 私が書くのは想像の産物なので、現実はもっと切実だろうと思いながら書いてます。心の傷は、目に見えませんからねぇ。

 以下、「不完全近隣系図」の闇です。
 彼と彼女のファーストコンタクト、彼女の場合です。
 子供の頃の仕打ち、というのは根が深いですよね。うちの姉もよく母から叩かれたことを口にします。たぶん、一回あっただけだとは思うけど……よほど嫌な思い出らしいです。三つ子の魂百まで、とはよく言ったものです。
 R15程度の表現、があります。直接的ではないですが……ご注意ください。




―― 不完全近隣系図 ~闇~ ――

 差し出した手を振り払われるのは、当たり前のことだった。


 物心がついた頃には常にお腹が空いていて、両親の顔色をうかがうクセがついていた。
 お腹が空いて、空きすぎて、でも欲しいと口にすることもできない。
 綺麗なスーツに身を固めた母の服に手を伸ばす。
 パシッとその手を鋭く叩かれて、まるで汚いものでも触れたかのような形相で叱られたのは……いつのことだったろうか?
 忘れてしまった。
 けれど、忘れていない空虚感。
 ああ、ダメなんだと手放した。
 すべてを――手を伸ばして欲しいと願うことを、わたしは望まない。
 望んではいけない。

 もう、二度と……。

 そんな幼い自分の人生観が覆されたのは、小学三年のことだった。
 彼に会って、愛美は初めて知ったのだ。
 望むこと、自分から求めること、そして相手が求めに応じてくれる……ということを。
 食べ物を口にできず、世間体を気にした親に閉じこめられた空間で、だんだんと弱っていく思考に毎日鳴る呼び鈴だけが響いていた。
 そのうち、来なくなると思っていた迎えの音は飽きることなく繰り返され、愛美の薄れいく意識をそのたびに覚醒させた。
 手放してしまえば楽だと知っている。
 なのに。
 それでも、縋りたいと本能が叫ぶ。

 タスケテ。

 ココ カラ ワタシ ヲ …… ダシテヨ!

 ドンドン、と扉が叩かれ、開かれる。
「しのはら!」
 春日真〔かすが しん〕が手を差し出して、頬に触れた。
 愛美の体に応える力は残ってなかった。涙さえ枯れていた。
 でも、その瞬間に愛美の心は決まっていた。
 目を閉じる。

 この人のために、わたしは何ができるかな?

 何か……できる?

 できるなら、なんでもするよ。



(真ちゃん……)
 目を開けると、そこは暗い部屋だった。
 息が苦しい。ずっと昔の夢を見ると、果たして自分はどちらの世界の住人なのかと身震いがする。
 大丈夫、と体を抱きしめておまじないのように彼の名を口にする。
「真ちゃん……」
 涙が零れた。あの頃には零れなかったものが頬を伝って、薄いシーツを濡らした。
 学年が上がるにつれて、少しずつ想いの形は変わってくる。より鮮明に、原始的な関係を望んでくる心。
 聞いた当初、幼かった愛美には大して意味をなさなかった言葉の羅列が次第に大きな重みをもってのしかかるのだろうと思わせた。
 彼がいないと呼吸もできない。なのに、いつかは離れなくてはいけないのだろうか?

 ううん、まさか。ありえない。
 ずっと、友達のままなら きっと 一緒にいられるよ。

 言い聞かせるのに、心は頑なに首を振る。
(――イヤだよ。足りない。全然、足りない……!)
 体のどこかが切なく濡れて、彼を愛したいと嘆く心が溢れた。指でその場所を探って、なだめる。


 ねぇ、夜だけ。

 ここだけでいいから。

 あなたを想って、いいですか?

  >>>おわり。

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無題
うん十年生きてきて思うのですが、いつも笑ってて悩み事なんかないだろうと他人から言われるような人が、実は一番心に傷を負っていて(抱えていて)それを隠すために笑っているものなんだと。大人は小さい頃の出来事なんか忘れるものだと言う人がいますが、覚えているものだし具体的に覚えていないと理由がわからないトラウマとなって大人になっても苦しんだり。いつか誰かに吐き出せると救われるんでしょうけど。愛美ちゃの場合、真くんが偶然(必然?)にも彼女の状況を知ったことで彼が天使のようにも思えているのかも。諦めることに慣れているつもりでも心の底では救いを求めてるはずだよね。子どもにとっては親は絶対的な存在だけに怖いですよ。私も自分が母親であることの責任の重さを怖いと思ったことが何度もあります。病気の時の対応にしても躾けにしても別の人間の人生を左右することに。息子が小さい頃に大きな病院にかかる必要があって、どこを選ぶか、それによってその後の家族の生活も変えなければいけなくなるため悩みました。あの時あれでよかったのか?後悔でなくとも振り返ることはたくさんあります。子どもに「貴方のため」と言いながらすることが、実は親自身のためだったりというのが多いですからねぇ。私の場合、娘に厳しく育ててゴメンねと言っています(苦笑)
mimana 2011/02/24(Thu)01:12:53 編集
難しいですが。
子育てはいろいろ悩みながら皆さんされてるんでしょうね。よく、虐待は繰り返す、とかも言いますが……最初からしようと思ってしているワケではないのだと思いたいです。それぞれの悩みとか生活とかありますしね。人間の心は深くて底が知れません……。
人同士の付き合いなので間違いもあるでしょうけれど、最終のところで間違わなければ修復できるんじゃないかな? と愛美と家族の関係でも考えていたりします。まあ、そんな話が通じるのかは別にして、心の持ち様だと思うので。
天使といえば、春日家の代名詞なんですかね(笑)。真くんは「守護天使」?
【2011/02/28 20:45】
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