不完全近隣系図。-平穏（前編）-

　「不完全近隣系図」の第十六回です。
　今回の章（という区切りなのか、どうか？）は、視点が前半春日（弟）で後半が愛美さんです。
　なぜ、そのような定型を崩すハメに陥ったのかというと……単に書き始めの場面で何も考えずにいたら、真くんの視点で始まっちゃった！　ってダケです。
　書き直すことも考えたのですが、冒頭の流れ上どうしても彼視点じゃないと締まらない気がして、そのまま採用しました。
　あえて、各視点にこだわることもないか？　というユルーイ縛りで書いてますので、気にしないでください。

　「不完全近隣系図」、最後まで執筆終了しました！　ドンドンパーフー♪
　って、コトで三月くらいで連載終了できる予定です。
　高校生編の予定は未定ですが、ご希望が多いほど続きを書く可能性は高くなるので、お時間のある奇特な方は是非、声をかけてやってください。
　ただし、高校生編よりは社会人編にすっ飛んでしまう可能性もあります。書きやすい手法を選ぶので、その辺は厳密にお約束できませんのであしからず、ご了承の上お声掛けをお願いします～！

　以下、「不完全近隣系図」の平穏（前編）です。
　真くん視点はやや短めです。
　何が書きたかったかって？　それは彼の視点からまずは朝の情景を見て欲しかった……愛美視点から見たんじゃ、分かりにくくなりそうだったもので(^^ゞ

――　不完全近隣系図　～平穏（前編）～　――

　志野原愛美〔しのはら　いつみ〕が台所にいると、春日真〔かすが　しん〕が奇妙な生き物を見るように彼女を見た。
　勝手知ったる我が家、とでも言うように愛美がボウルに熱湯を注いで、そこに小鍋を浸すと切り刻んだ茶色い物体を放りこむ。台所の空気は一様に甘い。

　なんで、志野がここに？

　という、疑問は愚問だ。ここは正真正銘真の家の台所ではあるが、彼女がいる、という状況は案外恒例化している。
　朝の早い時間、というわけでもないが……日曜の午前中に家族でない人間が台所でガサゴソしているのは、傍から見れば異様だろうな、と寝起きの頭で彼は冷静な感想を持った。けれど、それは彼女に対する図々しいという類の嫌味ではなく、どちらかというと安堵に近い。
　真の目の届くところに愛美がいる、という事実が彼をホッとさせるのだ。
　ただ。
「それ、チョコレート……だよな？」
　と、一応訊いてみる。
「うん！」
　いい返事を返して、愛美は一心不乱に小鍋の中のチョコレートをヘラでかき混ぜている。
　心底、楽しいという表情だ。まあ、それはいいことだけど……。
「真ちゃんにあげるの。もうすぐ、バレンタインでしょ？」
「あー、そう」
　まー、そうだと思ったけどね……。
　どう反応すればいいのか、毎度真が困っていることに彼女は気づかない。
（俺にくれるものを、本人の目の前で作っていいわけ？　おまえ的にさ）
　普通、こういうものは隠れて用意して、当日に渡すのがセオリーだと思うのだが……愛美はあまり気にしない性質〔たち〕らしい。
　毎年毎年、真の家に来て作っては、出来のいい一部を綺麗に包装して、残りを春日家に進呈して帰っていく。
　当然のことながら、真はいつもその進呈されたものとほぼ違わぬものをバレンタインの当日に受け取るわけだ。
　いや、べつに愛美が気にしないなら真はそれでいいと思っている。目の前で作っているのを見るたびに、無性にツッコみたくはなるが。

　　>>>後編に続きます。