たとえばこんな日常とか。彼女の場合4-2

　「たとえばこんな日常とか」バレンタインネタの彼女視点、後編です。
　久方ぶりに書いたので、ちょっと二人の距離感が微妙に（笑）。まあ、そういう季節もありますよ、というコトで。
　明日は、彼視点です。

　以下、「たとえばこんな日常とか」彼女の場合4-2。
　迫る彼と、逃げ腰の彼女……その理由は次回に持ち越しです。

――　たとえばこんな日常とか・彼女の場合4-2　――

　部屋に案内されて、そこから見える夜景に目を奪われて窓に近づく。
「きれい」
「せやろ？」
　大きな窓の向こうに彼の立ち姿が映って、その甘い瞳と目が合って小槇は頬を染めて俯いた。
「あの、輝くん」
「んー？」
　こつん、と頭の上に彼の顎がのると、後ろから肩を抱くように腕が廻る。
　窓ガラスをうかがえば、輝晃は嬉々として彼女を待っていてニコリと笑った。
　小槇から差し出されるソレが、彼にとっては 特別の 思い入れがあるらしい。
　毎年のこと、ではあるけれど……彼が期待をすればするほど小槇はどうしたらいいのか分からなくなる。
（そんな……たいしたもの、用意でけへんのに）
　これまでは、それでもそのあとの要求に応えれば満足してくれていたから気にすることは少なかったのだけど、今年はそれも難しい。
　手のこんだものを用意するにしても、八縞ヒカルのファンからは山のように送られてくるだろうソレに敵うはずもないし、彼からすればいい迷惑なんじゃないだろうか？　と悩んだ末にいつも無難なものを選んでしまうから渡す時に後悔する。
（やっぱり、今年くらいええのん買えばよかったやろか？）
　手の中にあるのは、小さな箱だ。
　山のように貰う彼のために、いつも小槇は小さくて少し苦めのチョコレートにする。
　唯一、気持ちがこもっていると言えるのは「手作り」していることくらいだろうか？
　湯煎して、冷やし固めた程度ではあるけれど。
「ひゃっ！」
　焦れた輝晃が耳たぶにキスして、指先が首筋を撫でる。
「や、やめてよ！　渡すからっ」
　慌てて耳を片手で防御し、小槇は手の中の箱を差し出そうとした。
　けれど、「遅い！」と彼は言ってその手首を乱暴に押さえる。
　ふふん、と唇の端を不敵に上げて、彼女の自由を奪った。
　窓ガラスに触れた手や肩がひんやりと冷えて、なのに唇に触れる感触に体が熱く反応した。
　啄むように触れていたそれはすぐに深く抉るように入ってきて、彼女の中を翻弄する。

「はっ……ぅん……んっ」

「はぁ……たまらん。小槇、手の中のソレ早くくれん？　俺、溶かしてしまいそうや」
　唇を離した彼はそう無邪気に言ってのけ、真っ赤な彼女をさらに赤く火照らせた。

　>>>彼視点に続きます。