背徳の姫君・番外-祭囃子が聞こえる。おまけ。

　「背徳」番外、夏祭りネタのおまけです。
　彼女視点と彼視点のその後、寸止めのあとの彼女と彼の微笑ましい（←え？）ひとコマと思っていただけたらいいなあ！　と願っています。
　彼の本性はというと、最近どうも「隠れ～」とか「羊の皮を被った～」とか……かなりいい得てますけど！
　夏企画の「夢見る～」の連載と一緒に、いくつかいただく拍手コメントやメールは本当にありがたく読ませていただいてます。
　案外、純情エロチカな二人には続編に関するご要望が多いことに、驚きながら（私の一人妄想かと思ってた！）、嬉しく感じています。
　一緒に妄想していただけると、ホッとします！
　今後とも、よろしくお願いしますねっ。

　で、サラリと更新しちゃってますが、「背徳」番外の夏企画「夢見るウサギ、恋するオオカミ」の第2話をアップしてます。
　下向き彼女は、ボケボケしてますが本人は至って真面目です。ウケ狙いではありません。ふふふ、微笑ましいなあ！
　とか、思っているのは私だけでしょうか？

　以下、「背徳の姫君」番外・「祭囃子が聞こえる」のおまけ。
　その後、寸止めの割りには際どい描写でゴメンナサイ！

――　背徳の姫君・番外-祭囃子が聞こえる。おまけ　――


「馬鹿」

　と、ずりずりと木の幹を滑って地面に腰をつけた山辺志穂〔やまべ　しほ〕を鳴海広之〔なるみ　ひろゆき〕は覆いかぶさるようにしていた上半身を持ち上げながら呆れたように呟いた。
「え……？」
　一人、到達してしまった志穂の思考は、回転が鈍くてよくわからなかった。
　ただ、わかるのは――自分だけ気持ちよかった、ということ。
　まともに顔を見る事はできない。
　しかも志穂の下肢はグズグズで、しどけなく開いたそこを広之がティッシュとハンカチで拭いてくれたり、脱げてしまった下駄を履かせてくれたり、立ち上がることもなかなか出来なかった彼女の手を引いて立たせ、しかも乱れた浴衣を整えてくれたりした。
　乱れた、と言っても帯を締めなおすほどではなく、合わせ目を手直しする程度で済んだ。
　たぶん、彼がそのように留まってくれたのだ。なのに、最後の最後で志穂の方が崩れてしまった。本当なら浴衣に土をつけることもなかったはずなのに。
「ほら、腕につかまっておけよ」
　そこかしこについた土を払いながら、広之が腕を差し出した。手を繋ぐだけでは不十分だと判断したのだろう（実際、自力で立つのは無理だった）。
　そうして、志穂の足から脱がせた下着を彼がどうしたものかと手にして、その懐に仕舞うのを彼女はぼんやりとした目の端で確認した。

　その映像処理がきちんとなされたのは、夏祭りの出店が並ぶ道を歩き始めてからのことだった。


「あ、あの……鳴海くん」
「なに？」
　広之が横目で促すけれど、志穂はどう口にしたらいいのか分からなかった。
　こんなところで口にしていいことなの？
（わ、わたしの……）
　しかも、濡れ……そう改めて気づくと、火を噴くほどの恥ずかしさで死ねるとさえ思った。
　逃げたい。でも、今の状況では歩くことさえ彼がいなければ難しいのだ。走って逃げるなんて、到底できない。
「志穂、真っ赤」
　クスクスと楽しそうに彼が笑うから、戸惑う。
　平然としている彼の懐に そんなもの があるなんて誰も思わない。口にしないほうがいいのだと、頭では理解しているけれど……志穂の思考はそれほど器用にはできていない。
　気にしない、と一生懸命努めても、思考はそこにとどまって離れなかった。
　とどのつまりは、上の空。
　それから、また何組かの知り合いと遭遇したけれど、志穂はほとんど覚えていない。
　彼の懐が気になって仕方なかったから、それどころではなかった。
　ただ。
「――志穂」
　と呼ばれて、綿飴を口にしていた志穂は顔を上げ、軽く唇を舐めるキスをされた。

「　甘い　」

　広之がからかうように言ったのを、ちょっとだけ覚えている。

　　>>>おわり。