山辺志穂の場合。天使の領分4(終)

　「背徳の姫君・番外」下向き少女と隣の委員長の受験風味の年越し彼女視点の最終話です。
　従妹の女の子の出番がコレだけ、というのはいかがなものでしょうか？
　と、思わなくもない「天使の領分」です（笑）。
　一応、彼視点のあとにおまけでこの茉緒さん視点を入れる予定です。
　短いモノになると思いますが、それも楽しんでいただけたら……と思っています。

　以下、「背徳の姫君」番外、天使の領分4。彼女視点。
　オチはつきましたでしょうか？
　次は、彼視点です。よろしければ、引き続き彼らの年越しにお付き合いください（長い年越しでスミマセン！）！

――　背徳の姫君。～山辺志穂の場合・天使の領分4～　――

「受験が、――終わるまでな」

「うん」
「我慢、できそう？」
　くすくす耳元で笑う広之に真っ赤になって、志穂は先ほどの醜態を思い出す。
「で、できるもん」
　たぶん、と口ごもれば広之はそんな彼女を覗きこんで「俺も、我慢するし。たぶん」と掠めるみたいに触れるだけのキスを――した。



　年明けて、三日。

　北見家で行われる新年会に向かう黒塗りの（高そうな）車の中で、志穂は俯き「無理だよ」と何度も首を横に振った。
　けれど、同乗していた彼女に容赦はなく、「無理じゃないです」と両手を握ってお願いとばかりに懇願してくるから、頬を真っ赤に染めて志穂は羞恥で今なら死ねるとさえ考えた。
「わ、わたしに……その、そういうの教えてって、言われても……困る」
　カァァ、とさらに頬の温度、だけでなく体中が恥ずかしさと革張りフカフカの車内でなんて話をしてるんだろう、という情けなさもあって一気に熱が上がる。
　今日だけでなく、年明けた次の日から北見茉緒からのこの手の頼み事は続いているのだが、流石に家族の目があるところでは憚れるせいか、あからさまではなかった。
「なにが、ですか！　ちゃんとしてたじゃないですか？　声、聞こえたんですからね」
　もちろん、その場では気を利かせて彼女は聞かなかったことにしてくれたのだが、いま現在の要求はとんでもない。
「む、むりぃぃぃ！」
　真っ赤だ。きっと。
　志穂はどう、この悪意のない年下の従妹から逃れればいいのか分からない。悪意がないのも善し悪しだ……と泣きたくなる。
「もー！　勿体ぶらなくてもいいじゃないですかーどうやったら男の人を誘えるんですか？　あと、やり方とか喜ばせ方とかいろいろ詳しく教えてくださいよー」
　だって、わたし何にも知らないから……と、結構思いつめた表情で彼女は訊く。
　けれど。
「さ、さそっ？！　や、やり？？」
　もう脳内が羞恥で沸騰した志穂には、茉緒の言語を理解することは不可能だった。目を白黒と点滅させてクラクラする後頭部を窓ガラスにぶつけると、「い、たーいっ」と涙目で叫んだ。

　　>>>おわり。