クリスマスLover。三崎純也の場合

　季節が微妙に外れましたが、今更クリスマスネタで小話を連載します。
　タイトルを見れば、今回の話がどの話のカップルかすぐに分かると思いますが……でも、結構久しぶりだから忘れられているカモね（苦笑）。
　他の話の、会話に時々上がっている浦川高校の伝説（←え？）の陽だまりカップルです。
　今回は、三崎先輩が卒業後のクリスマスを想定しています。
　美大の私の持つイメージをそのまま使用したので、ちょっと……いや、かなり偏見や誤解があるかもしれませんが、気にしないでくださいね！
　決して、芸術系の学校が変人ばかりだと思っているワケでは……どちらかというと願望です。だったら楽しいのに、と(^^ゞ

　以下、「クリスマスLover」の三崎純也視点。
　このカップルはどちらも自分が目立っているという自覚が薄い、のが持ち味です。
　今回もそんな感じを出せたらな、と思いつつ、あまり描写には生かせなかったか……悔やまれます。

――　クリスマスLover　～三崎純也の場合～　――

　肌寒い季節になった。

　厚手のコートにマフラーをして、息を吐くとここ数日で一気に下がった気温のせいか白く濁る。
　独り身には寂しいイベントも間近……ということもあり、三崎純也〔みさき　じゅんや〕の周囲にいる学友たちは煩わしいほどに騒がしい。
「三崎ー、唯子ちゃんに聞いてくれた？」
　なにが？　と問えば、「合コンだよ、合コン！」と恨みがましい目で見る。
「現役女子高生、しかも美少女！　の 彼女 がいるおまえには俺たちの切迫した気持ちが全然わかっとらんのだっ。この季節に一人は侘しいのだよ、やるせないのだよ、心の中が風邪っぴき！　なのだよ！！　このヤローッ」
　ぎゅうぎゅうと迫ってきた（しかも複数で）ので、若干純也はヒクリと顔をひき攣らせて「え？　あ、ごめん」と謝った。
　本当は全然悪いと思ってないけど。
　ちょっと、同情というか、憐み……かな？
　なにせ、美大生と言えば万年金欠だと相場が決まっている。
　よっぽどの裕福な家庭か、あるいは才能を駆使しない限りは画材や課題で年中お金と時間に困っている人種である。もちろん、好きでやっていることだからそれ自体に不満を洩らす輩は少ない。
　ただ、どうしても普通の女の子との付き合いは難しい。
　時間的制限もあれば、金銭的問題もある。
　大抵の女の子は、会う時間もなく甘えもさせてもくれない相手を敬遠する……らしい。
　先日、彼らが意気込んで参加した隣の女子大か、なにかでは散々な結果だったようだ。相手は贅沢したい盛りのお嬢様ばかりだったらしいから、当然といえば当然か。
　って、ことで。
　女子大生じゃなくて高校生なら 純粋に 中身を見てくれるに違いないと彼らは考えた。というか、思いついた。

　そうそう、俺らの知ってるヤツでいたじゃん。
　あー、いたいた。
　可愛い高校生の彼女がいるヤツなー。
　パッと見ただけだけど、かなり可愛いかったよなあ。

　春日唯子〔かすが　ゆいこ〕ちゃん！



　かくして、仲介役として白羽の矢をたてられた純也はやれやれと肩を竦めるしかなかった。
　唯子が純也の大学まで来たのは、一度しかないのに学内ではすぐに噂が広まった。
　純也の絵のモデルを彼女がしていることもその理由ではあったけれど、あまりに周囲が騒ぐので以来彼女を大学には呼ばないことにしている。
　唯子自身は、かなり不満そうではあるけれど……こんな飢餓状態のむさ苦しい連中の中に呼ぶわけにはいかないし。
「悪いけど、唯子の参加はありませんよ。その場合」
　合コンのセッティングをするのは、純也とてやぶさかではない。が、彼らの目的がどうも引っかかる。
「えー！」
「えー、じゃないよ。なんで、僕がクリスマスに唯子を貸し出さなくちゃいけないんですか」
　純也の明らかな迷惑顔にもめげずに面々は、「それじゃ半分意味ないじゃん」とぶうぶうと唇を尖らせる。
　いい歳をした男連中がしても、全然威力はない。むしろ、気色悪いんだけど。
　美大に入るために、二浪三浪は普通だ。現役合格した人間もいれば、そうでない人間も当たり前にいるから目の前の彼らも例外ではない。
　去年まで高校に通っていた者もいれば、高校生をしていたこともあったなーと懐かしむ者もいる。
「まあ、唯子の友達にあたってもらいますけど……悪さはしないでくださいね」

「わん！」

　と、彼らは利口な犬のように吠え、純也を脱力させた。

　　>>>春日唯子の場合、に続く。