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裏表一体、日々のこと。
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 複雑な乙女心なのです。

輝晃くんの鉛筆画

 「夕焼けと机と教室と。」の目次ページにて、「彼女の存在」をアップしました。
 本当は拍手番外のおまけページも変更したかったけど……無理でした。時間がない。
 『相棒』見てたんで、当たり前です(>▲<)!


―― 夕焼けと机と教室と。~3-2~ ――

 あれは、中学校の三年の二学期。文化祭で、『ロミオとジュリエット』を演〔や〕ったあとの、とある放課後。
 夕暮れのクラスから聞こえてきた会話に、小槙は思わず立ち止まった。
 立ち聞きをする気は、なかった。けれど、話に自分の名前があることに気づいて……ドキリとする。
( 馳、くん? )
 聞こえたのは、彼の声だった。それに、女の子の集団の声が重なる。
「テル、仁道さんのことどういうつもりなん?」
 すぐに、それが「ジュリエット役」を小槙に指名したことだと解かった。
「あの娘のこと……好き、なん?」
「本気やのっ?!」
 問いただすけたたましい声に、小槙は立ち去りたいのに立ち去れなかった。足が、地面から離れない。
 それは、怖いのに……彼の答えが気になったからだ。
 聞かなければ、よかったと思った。

「好きや、ない。冗談……そうや、仁道の反応が可愛いからつい、からかってしまうんや」

 この輝晃の言葉に、目の前が暗くなった。
 前に進むことも、だからといって元にもどすこともできなくなって、立ちすくむ。
 小槙にできることは、考えないようにすること――それだけだった。



 きっと、あれが小槙の心の時間を止めてしまった。
( ……のやと、思うんやけど )
 至極、真面目に自らを考察してみたり。
 どうして、そんなことを 今更 考察しているかと言えば、問われたからだ。
 小槙を階段の踊り場まで連れ出した、奥田奏子〔おくだ そうこ〕に――。
「仁道弁護士さん、本当に恋人じゃないの?」
 と。
 数秒の思案ののち、小槙は「うん」と頷いた。
「恋人ではありません。だって、アレは、は……ヒカルくんの「冗談」だもの」

「 冗談? 」

「そうよ、彼って昔からそうなの。わたしのこと、本気で好きなわけ――ないよ」
 小槙は必死になって言い聞かせて、奏子の眼が険しく細められたことに気づかなかった。
 唇を噛んで、
「わたしなんかより、奥田さんみたいな綺麗な人の方が 絶対 似合うし……」
 パン、と頬を叩かれて、小槙はビックリして目を見開いた。
 痛みはあとから、やってくる。
「――よく、言うわ。わたしが彼を愛してたって、愛してなんかもらえないのに。ヒカルは本当は アナタが 好きだから……アナタが 彼に 愛されてるクセに……ッ!」
 ドン、と肩を押されて、小槙の身体はグラリと傾いた。
( や…… )
 彼女に助けを求めようとして、ゾクリとした。
 悪意に満ちた眼差し。
「わたしのヒカルに 恋人 はいらないの」
 と、その鮮やかな紅を引いた奏子の唇が静かに動いた。

『 テルから、離れて欲しいんやけど……仁道さん 』
『 なあ、テルにあんたがつり合うとでも思ってるん? 』
『 そんなん、お笑い種や 』

 くすくすと、蔑む笑い声。
 中学の頃の、クラスメートの悪意のこもった台詞に重なって……あの頃の彼女たちの視線を思い出した。
 ここ、最近感じていた視線は、奥田奏子だったのだと小槙はようやく確信した。

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