夕焼けと机と教室と。たとえばこんな日常とか

　まったりと間をあけておりますが、メールやらでコメントを下さった方々ありがとうございます。
　なかなかお話自体の更新ができませんが……お気が向きましたら、時々覗いてやってくださると大層心強いです。

　で、今回は「ピアノ」の続きにしようかとも思ったんですが、メールで「夕焼け」について結婚編のご要望をいただいたので、ちょこっと書いてみました。
　この二人の結婚生活って一体……あんまり想像つかん、と思っていただけに……結果、こんな場面しか思いつかなかったです(^^ゞ。
　このあとが多分、彼の本領発揮だと思われますが、そこはチラリズムで楽しむのも一興かと思います。

　以下、「夕焼けと机と教室と」の後日談・番外。
　「たとえばこんな日常とか」読みきり一本です。
　彼女はいつもこんな感じで、彼を誘うそうですよ？

――　夕焼けと机と教室と。～たとえばこんな日常とか～　――

　仁道小槙〔にどう　こまき〕は、ミーハーである。


　小学校・中学校と親友だった佐藤カナコ〔さとう　かなこ〕が指摘するまでもなく……彼女は「彼」の少し憂いを帯びた、それでいてどこかヤンチャそうな、端整な顔が好きなのだ。
　それは、結婚して苗字が「仁道」から「馳」になっても変わらない。
　「彼」の出ている記事はシッカリとスクラップしているし、出演している番組・ドラマは総録画、舞台があればチケットは手に入れない（←行けない。というか、行く勇気がない）までもチェックは毎回欠かさない。
　せっせっとスクラップしている後ろ姿を見ると、複雑な気分にもなる。もともとの彼女の生真面目な性格なのだろうが、コレクター気質というか何というか。
　マニア、あるいはフリークに近いのかもしれない。
（またか……）
　テレビの前でハンドタオル片手に一生懸命ドラマを観ている彼女に、仕事から帰宅したばかりの彼はいつもの光景ではあるが（やれやれ）と息をつく。

「面白い？」

　訊くと、「よう分からん」と涙を溜めた目は画面をとらえたままで彼女が答える。
　内容はよくあるお涙頂戴のベタな純愛モノだし、設定もやや古い。しかし、女子高生にはウケがいい配役をしているせいか視聴率は上々の月九ドラマだ。
　ただし、今は土曜。かろうじて日付変更線は越えていないが、夜遅い。
　つまり、映し出されているコレは録画だ。
「ふーん、じゃあなんで観てんねん」
「だって、ええ演技なんやもん。この人……なんか初恋を思い出すんよね」
「――ああ、そう」
　そういう彼女の目に映っているのは、男主人公を演じる八縞ヒカル〔やしま　ひかる〕だった。
（ホンモノがここにおるっちゅーのに……目に入っとらんつーのはどういうこっちゃ）
　と、テレビの中の自分にヤキモチを焼くという不毛さに 正真正銘 芸名・八縞ヒカルこと馳輝晃〔はせ　てるあき〕はひとりごちて、ドカリと小槙の後ろのソファに座ってからシャワーを浴びて濡れた髪をわしわしとタオルで乾かした。
「ホラ、こことか。胸がキューンとなって、切なくなるんよ？」
　ドラマの中の役は、若くして不治の病にかかった青年役。恋人に嘘をついて別れ、ＩＣＵ〔集中治療室〕に入って人工呼吸器を取りつけられ苦しそうに喘いでいる。
（そういうモンかな？）
　と、自分の演技を見ながら、あそこはもうちょっと抑え目に息を吐いた方がよかったかなと考える。
　ドラマが次週の予告になって、輝晃をようやく振りかえった小槙は恥ずかしそうに俯いた。そうして、おずおずと彼の横に座ると彼のパジャマの青い袖を取る。
「あんな、輝くん」
「なに？」
「わたし、知らんかってん」
　何が？　と輝晃は眉を寄せた。
　少し大きめの赤いワンピーススタイルのパジャマを着た彼女は、パジャマを羽織った程度の彼に寄り添って昔と同じように無防備に微笑む。

「あの頃――自分が、こんなに輝くんが好きなこと知らんかってん」


　それが、軽く （経験豊富な）彼の 理性を吹っ飛ばしていることを （トコトン鈍い）彼女は 知らない。

　　>>>おわり。