たとえばこんな日常とか。彼女の場合4-1

　「たとえばこんな日常とか」バレンタインネタの彼女視点です。
　バレンタイン、の話なだけに甘い展開ですが……今回は伏線のみ。
　彼女視点は主に伏線です。
　彼視点で解明の予定、どうぞ生温かく見守ってやってください。

　以下、「たとえばこんな日常とか」彼女の場合4-1。
　書いてる本人、こんな甘い経験したことないんですけど！
　と、やさぐれてみる。まあ、存分にイチャイチャしてください！！　ってコトで。

――　たとえばこんな日常とか・彼女の場合4-1　――

　いつもと同じようで、今年の この日 はやっぱり少し違う気がした。


　旦那の目立つ職業柄、なかなか外に出掛けることのできない二人だったが、今日は「特別」と彼の方が言い出して少し高いホテルのレストランに入った。
「……ねぇ、輝くん。今日が何の日か分かっとる？」
　ものすごく格式の高そうなテーブルについて、馳小槇〔はせ　こまき〕は咎めるように向かい合った夫・馳輝晃〔はせ　てるあき〕に顔を顰めてみせる。
　その彼女の不機嫌を「まあまあ、ええやん」と軽く宥め、整った造形の彼は「知ってるに決まっとる」と言わんばかりに微笑んだ。
　芸名・八縞ヒカル〔やしま　ひかる〕として世間ではすでに不動の地位を確立している若手俳優である彼は、それだけでも十分に魅力的だ。結婚をして一年を過ぎても、小槇は彼のその憂いのある綺麗な顔に弱かった。
　それは、たびたび（ずるい）と思わせるほど。
　しかも。
　運ばれてきた料理は飾りつけも見事なら、味も素材も今まで口にしたことがないほどの一級品で文句など口の中で蕩けてしまう……そういう雰囲気に自然と持っていくのは、処世術に長けた彼の才能なのかもしれない。
（しゃーないなぁ……もう）
　諦めて、とりあえず贅沢な食事を満喫する。
「小槇？」
　モリモリと食べる彼女を輝晃は呼んで、また一つ驚かせる。
「上の部屋、とってるんや。泊まってこ？」
「え？　そんなん聞ぃてへんよ？」
「そりゃそうだ。言ってないし」
　「でも。今、言うたやろ？」と軽く笑われて、小槇は困った顔をした。
「着替えもないのに……急に言われても困るわ」
「そう言うと思うたけど。まあ、俺が何とかするからええやろ？」
「……最初からそのつもりやったん？　強引やねんから」
　小槇が唇を尖らせるのを、輝晃は悠然と眺めた。そして、決定権を彼女に委ねる。

「　嫌？　」

　だから、ずるいねん。
　と、小槇は思い、それでも今日はそういう日だからと納得させる。
（鞄に入れてきて正解やったな……）
　家を出る時に迷った末に忍ばせたのを思い出して、頬を緩める。彼の性格を知らずのうちに学習しているのかもしれない、と少し嬉しくなった。
「嫌やない」
　首を横に振って、微笑んだ。

　　>>>続きます。