たとえばこんな日常とか。彼の場合3

　予定を変更しまして、「夕焼け」年末年始のお話です。
　今日、いきなり思い立ってメモするつもりで彼視点を書きました。コレは今日のお昼ごはんを食べている時に、思いつきました。
　発端は、朝見ていた芸能ニュースです。
　年末年始って、芸能人はみんなハワイとかハワイとかハワイとか……行きますよね。
　どうしてハワイなのかって話です（←え？）。
　内容とは全然話は違いますが、芸能レポーターに追い回されているカップルとかハワイに行って、迷惑ですって顔をするのはイマイチ感覚がワカリマセン。だったら、他のトコロ行けばいいのに、って思うのは素人考えなのかしら？
　いわゆる、話題作りならわかるんですけど。
　まあ、芸能界のことはまったく知らないので、当然ながらフィクションです。空港のどこで芸能レポーターが張っているのかもテキトーです。
　雰囲気だけで読んでいただけると、嬉しいです。

　以下、「夕焼けと机と教室と」のその後番外、たとえばこんな日常とか（年末年始編）の彼視点です。
　彼女視点は、もちろんあるんだろう？　設定です（笑）。
　ヒモのビキニとか、どうかなあ？←コラコラ。

――　たとえばこんな日常とか～彼の場合3～　――

　空港の駐車場に着くと、彼は車から降りて運転していたマネージャーに笑いかけた。
　上機嫌。
　彼に付いて、すでに片手では足りない年月を経ているから、野田にはすぐにわかった。いや、今日の仕事が本来予定のなかった突発的、かつ無視のできない種類の撮影だったから朝は声をかけるのも憚れるほどの不機嫌だった。彼の愛妻が説得しなければ……たぶん、断られていたに違いない。
（小槙さんには、感謝してもしきれないな）
　と、野田は苦く笑う。
　もちろん、突発的な撮影だった（先日クランクアップした映画の監督が、いきなり思い立って１シーンを撮り加えたいと言い出した）にもかかわらず、一発ＯＫで終わらせたのは彼の稀代なる才能というか、センスのなせる技だろう。

「じゃ、野田さん。行ってくる」

　カチャリ、と耳まで隠れる帽子とマフラーをした八縞ヒカルこと馳輝晃〔はせ　てるあき〕はサングラスをかけると、空港〔ここ〕まで送ってきたマネージャーに手を上げた。
　荷物もあるから運ぼうか、と提案したが……それは、辞退された。おそらくは、野田と別れの挨拶を交わすのも彼にとってはもどかしいことなのだ。
「いい旅を」
　野田が言い終わるより先に、大きなカバンを一つ肩にかけた彼は背を向けて颯爽と建物の中に消えていった。



「さて、と」
　空港のロビーに入ると、馳輝晃はサングラスに手をかけて持ち上げる。
　年の瀬迫る、この季節になると芸能界の人間は正月番組の録画も終えて、続々と海外に脱出をする。有名ドコロはハワイだが……輝晃の行き先は違った。
　海外は海外でも、もっとマイナーであまり耳にしない島だった。
　輝晃自身、彼女から聞いたのでよく知らない場所だ。けれど、小槙が言うには海が綺麗で、コテージが海の上に建てられていたり、魚が泳いでいるのを覗けたりするらしい。
　南半球は、今が夏だからちょうどいい季節なんだとか、やけに力説していた。
　時々、彼女は彼にとって理解しがたい。
　結婚をする前に一度、海外旅行をしようと提案したら人目のない国よりも日本語の通じるハワイを選んだのに、今回は一変して出来るだけ人目のない場所がいいのだと言わんばかりだ。
　搭乗口に通じる通路は、マスコミのカメラや記者で騒然としている。
　八縞さん、と呼びかける声も何度か耳にしたけれど、輝晃は答えなかった。ヒカルとして微笑みを返しはしたけれど、行き先を教える必要はないからだ。
（小槙が隣にいたら、キスくらいしたるんやけどな）
　と、冗談めかして思う。
　彼女の真っ赤になって睨む顔が恋しい。本当なら、一緒に ここ を歩いているはずだったのに……監督の妙な発案で予定が狂ってしまった。
（……まあ、ええか）
　おかげで、小槙から思いがけないお年玉を貰えそうだ。
「どんな水着にしてもらおうかな」
　普段、彼女は海に行っても水着になって泳ぐタイプではない。もともとアウトドアよりはインドア派、着てもスクール水着系のワンピースが主流というか、それしか選ばない。
　もちろん、それはそれで彼女に とても よく似合うとは思うけれど。

　頭に浮かんだ、彼女らしからぬ水着姿に輝晃は口元をゆるめて足早に座席に向かう。

「小槙、待った？」
　一人、座席に座っていた彼女に声をかけ、輝晃はふり返ったらキスしようと決めていた。

　　>>>おわり。