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裏表一体、日々のこと。
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 長雨は夜の間、ずっと降り続いた。
 朝になってようやくどんよりとした昏い雲が切れて、うっすらと明るい朝の光が窓から寝台へと射しこんだ。

「……um」
 一晩ずっと熱にうかされた彼が身じろぐのを見つけたのは、屋敷の一人娘である緋里だった。
 キラキラと輝く眩い髪と、身近な人間とは明らかに違う色素の薄い肌……その瞼が開くのをドキドキと胸を高鳴らせて待った。
(あの、見たことのない色は間近で見たら……どんなにキレイなんだろう!)
「……wha…what?」
 ベッドに横になった少年からすれば、緋里のその行動はどんなにか驚いたことだろう。
 目を見開くと、固まった。
 彼の方へと身を乗り出した少女は、彼のすぐ目の前で「なぁに?」と首を傾げて、その口から発せられた呪文のような異種の響きに 何か が起こるのかとまた少しドキドキと胸が高鳴った。
「………?」
 けれど、目の前の少年が固まった以外は何も起こらない。
 少しキョロキョロと辺りをうかがって、呪文ではなかったのかと思考を軌道修正して向き直る。
「おはようございます、エル。わたしは かずみやひさと と申します。ひさとよ、ひさと」
 ひさと、ひさとと連発すると、ようやく少年も小さな少女が自己紹介をしているのだと理解したらしい。
「ヒ、サト?」
 蜂蜜色の眼差しに、澄んだ声で名前を呼ばれて緋里はパァと目を輝かせる。
「そうよ、ひさと。あなたは、エルね」
 人差し指で自分を指してから、彼を示した。
「エル?」
 少年は首を傾げて、よじよじと寝台に乗ってきた少女に聞きたいことがたくさんあるのだと気づいた。

 けれど。

「ねぇ? きかせて! 天狗や鬼はどこに住んでいるの? さっきのは呪文? それとも秘密の言葉? わたしにも使えるようになるかしら?」
「………」
 矢継ぎ早に 日本語 で質問を投げかける彼女に、彼が話しかけるのはとても難しいことだった。

  >>>続きます。

 結局、リック・ハウンエル君の名前は本分にはまだ出てこないまま、次回に続く(笑)。
 次は、ちゃんと彼が話せるようにお嬢さんだけでなく、語学の堪能な人に登場いただこうと思います。例えば、有能な執事とかメイドとか。
 子どもなら言葉が違っても仲良くなれそう……じゃない? と手探りで書いてます。彼の方は分かりませんが、彼女はそのあたり頑張っているので大丈夫だよね? 早く、仲良くなってくれるといいなあ(希望)!
 でないと、話が進みません!!

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 しとしとと長雨の続く、夕暮れの頃だった。

「父さま」
 和宮緋里〔かずみや ひさと〕は幼い手で父親の袖を引っ張って、路上に止まっている今はまだ珍しい車という乗り物に乗って、その窓の向こうに見えた人影……と言っていいのか? は分からない姿に首を傾げた。
 暮れはじめた路上は暗く、点在する街灯の灯篭の頼りない光が揺らめいてその影を映す。
 彼女の見たことのない色をした、キレイな髪が雨に濡れてキラキラと輝いていた。
 最近、彼女の父親が異国の種だというスラリとしたラインの猫を連れ帰って来たが……その雰囲気によく似ている。
 ぐっしょりと濡れたそのスラリとした体は、今にも倒れそうに左右に大きく傾いて、人の気配に気づいたのか緋里の方を向いた。
 ガラス細工のような眼差しは、緋里の知る人間の色をしていなかった。
 蜂蜜のような、金色。
 おとぎ話に出てくる鬼、も確かそんな色だと描かれているはずだが……こんなキレイな鬼ならば攫われてもいいかもしれない、と緋里は思った。

 鬼は緋里には分からない言葉を悲痛に叫んで、倒れた。
「父さま! 鬼がっ」
 死んでしまった! そう騒ぎ立てる娘を「そうではない」と宥めながら父親はぐったりとなった影を抱き起こし、悩ましげに息をつく。
「どうしてこんなところに異国の子どもが? ……しかし、どこの子息にしろ丁重に扱わねばならんだろうな」
 雨に濡れて冷たくなった体を毛布でくるんで、ふと胸に光るペンダントに目を細めた。
「エル?」
「なぁに? それ」
 ぴょこん、と興味津々と覗き込んだ緋里に父親は鎖についた平べったい金属を見せる。

 緋里の見たことのない記号が、示されていた。

 彼女はその一番大きな文字を指でなぞる。
「それは、異国の文字で「エル」と読む。緋里」
「える?」
 彼女の父親は鬼の名前を正しく教えてくれたが、緋里には難しくて覚えられなかった。

 だから、彼女は鬼の名前を「える」と記憶した。

  >>>続きます。

 これは、「みちつくの庭」のサイドストーリーです。まだ名前しか出ていない「ひーさま」こと和宮緋里の幼少期の話です。
 彼女が奏江や真広に出会うのは、これより少しあと……の予定です。奏江とはもしかすると、多少面識があるかもしれませんが。
 だって、生まれた頃からの許婚ですヨ(^^ゞ。
 それはそれとして、彼女の性格付けになればいいなと思って考えてみました。過去話……鬼つながりで!
 和宮のお家は、外交官とかそんな家柄じゃないかなーと勝手に思ってます。時代背景は、なんちゃって大正時代です。テキトーです。
 路上は馬車がガラガラ行き交っている時代です。その中、この和宮家だけ車! のつもり。

 ちなみに、エルの名前は「リック・ハウンエル」なのでした。
 綴り、考えなしで決めたけど、まあいいか。

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 妙な胸騒ぎが奏江の正常な判断を邪魔している、ような気がした。

 にっこりと笑う、静かな真広の微笑みがまるで誘っているようだった。けれど……一度、小さく頭を振って落ち着こうと自らを言い聞かせる。
「……真広? だよな? どうして、お前がここにいるのか……よく理解できないんだが」
 奏江がなんとか冷静に言葉を選ぶと、真広が首を傾げた。
「お館さまに、お聞きになっていないんですか?」
「父上に? いや、話はしたが」
 その内容が不愉快だったから、早々に席を辞し……詳しくは聞かなかった、というのが じつは 正しい。
 奏江のそれを聞かずとも察したらしい真広は、少し困ったように若い主人を見上げて「仕方のない方ですね」と口にした。
 彼のよくする説教の前触れだ、と奏江はうんざりして……眉をひそめた。
「なんだよ?」
「いえ。奏江さまを騙したようになって本当は謝らねばならないのですが……私〔わたくし〕は男ではありません。男として育てられ、男として奏江さまに仕えるよう命じられておりました」
 まっすぐな瞳が、じっと奏江を見つめていた。
「私は、女人にございます」
「……ちょっと、待て」
 と、奏江は頭を抱えたくなった。
 確かに、そうだったらいいと思ったことは幾度もあった。邪な欲望を真広に感じたときなどは、特にそう強く願ったものだ。
「おまえが、オンナ?」
「はい。……お館さまからお話の件は、少しくらい我慢して最後まで聞いていただかないと」
「待て待て! じゃあ、何か? 今晩の相手、というのは……まさか」
「はい、私にございます。私は生娘にございますから……ちょうどよいと思われたのではないでしょうか?」
 父上め!
 奏江は拳をふるわせて、唇を噛んだ。
「奏江さま? 大丈夫ですか? その気にならないのでしたら触って確認していただいても……っ」
「真広! お前もお前だっ」
 がしっ、と「彼女」の肩を掴んだ奏江は力任せに押し倒し、ハタと息を呑んだ。

「か、奏江さま?」

 つい、布団に押し倒してしまった。
 その現実に動揺して、本能と理性がせめぎ合う。
 戸惑った真広が少し体を捩って、けれどもそれ以上の抵抗はせずに奏江を仰いだ。
「無防備すぎるんだよ……男が、その気にならないワケがないだろう」
 と。
 ほとんどの理性を失って、奏江は彼女を見下ろした。

  >>>晴天の霹靂2。終了。
 ギリギリのあたりで止めてみました。この次の場面は確実に暴走が入っていると思われます。
 手探りで書いているので、当初の思惑とは少しずつ違っている箇所もありますが……結果オーライということで。
 「3」はブログでは書けないかもしれません。
 年末~年始にかけて、企画をしたいと思っている(一応)のでソチラに回すかもしれません。
 そうなると、必然的にこの話の季節は冬ですね。しかも、年末……うーん、どっかに火鉢でも置いておかないと寒いかな?←何の話だ?

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 十七の年になった頃のこと。

 高伊奏江〔たかい かなえ〕は父から伝えられた儀式の話に怖気がたった。もともと、仕事気質の父親とは衝突してばかりなのだが……それにしても、そんなことがあっていいのかと思った。
 昔の皇族ならまだしも、現代では時代錯誤もいいところじゃないか?

『そろそろ和宮〔かずみや〕家の緋里〔ひさと〕嬢との婚約披露もせねばならんだろうな?』

 という、父親の言葉は奏江からすれば、まだ許容範囲だった。幼い頃から和宮緋里〔かずみや ひさと〕とは「いいなずけ」として育てられてきたし、奏江の護衛役である三春真広〔みはる まさひろ〕とも彼女は仲良しだ。
 性格は悪くない。
 好きか嫌いか、と問われれば好きの部類に入るとは思うが、恋愛かどうかはよく分からない。
 友人、に近い。奏江からすれば、護衛役の真広よりも緋里の方がそれに近いように思えた。
(……そんな性癖がある、つもりではなかったのに)
 最近の奏江はそんなことばかり、考える。
 欲求不満か?!
「馬鹿親父っ!」
 乱暴に言葉を吐き捨て、自らの寝所に入った。
 父親は婚約後のことを考えて、息子に女をあてがったのだ。そういうシチュエーションになった場合、どちらも初心者では色々と悲惨なのだから男がリードしなければ、という話らしい。
 どういう理屈だ、と奏江は憤った。
「奏江さま、言葉遣いは丁寧にされないと……もう子供ではないのですから」
「わかっている!」
 いつものように答えて、(え?)と我に返った。

「真広?」

「はい、奏江さま。お待ちしておりました」
 寝具の傍らに白い内着姿で座した真広は平伏して、愕然とする主をまっすぐに見上げた。


 父上は言った。
 初めて同士は悲惨だと。
 だから、「初めて」の女性を 先に 一度経験しておけば対処法もわかるようになるだろう、と。

  >>>晴天の霹靂1。終了。
 「みちつくの庭」のかなり先に進んだ続きです。
 いや、こうシチュエーションが浮かんだからね、忘れないように……と思って。
 緋里嬢とのエピソードも考えています。
 身分違いの恋は心トキメク要素がいっぱいでとても楽しいのですが、時代考証とか難しくてなかなか書き込めません。
 なので、「みちつくの庭」の時代考証も厳密には決めてないのです。なんちゃって大正時代かな? とか思ってます。
 天皇様はおりますが、フィクションです。石を投げないで(泣)。

 思い立って書いたので、続きはまた気分に任せて書きます。「1」ってなってるから「2」もあるよ、きっと!

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 は、と目を開けた真広〔まさひろ〕は、ベッドの横で腕を組む少年に慌てて起き上がろうとする。
 ほんの少し、お腹に痛みが走って痣になっているのだろうと思わせた。
「奏江〔かなえ〕さま、お怪我は?」
「ない」
 むっつり、と彼は答えて、「おまえ、バカ?」と言いたげな表情でホッと表情をゆるめる柔和な少年を見た。
「あんなヤツらに なぐられる なんて、おまえの気が知れない。おまえは そんなに 弱いヤツじゃないだろう?」
 実際、奏江に彼らの手が及んだ時には、軽々と受け流す程度には見切っていたし、殴られてはいてもそれほどの痛手にはなっていないらしく、けろり、としている。

「加減がわからないもので」
 と、おっとりとした口調で物騒なことを口にすると、微笑んだ。

「でも、奏江さまに危害が及ばなくてよかった。彼らの機嫌を損ねたのは私ですから……気がすむまで相手をしようと思ったのですが……逆に、いらぬ心配をおかけしました」
 丁寧にこうべを下げて、「申し訳ありませんでした」と謝罪するから奏江はぱくぱくと口を開閉するしかない。
「おまえな……」
「はい?」
 首を傾げて顔を上げる真広へ、やれやれと思う。
「機嫌を損ねるもなにも あんなの はただの言いがかりじゃないか。相手にするものじゃない」
「でも、私のような人間が学校などという立派な子息が集う場所に入れば快く思わないのも道理……甘んじてお受けするのが 礼儀 かと」
 どんな礼儀だ? と奏江は思ったが、あまりに粛々と真広が言うので馬鹿らしくなる。
「わかった。それが礼儀だというのなら、しっかり相手をしろ。手加減なんかする必要は 微塵も ない」

 その主の言葉に、丸々と目を開いて真広は首を振る。
 考えられなかった。
 長い間、綾女〔あやめ〕から力の行使について「都会〔まち〕」では特に「慎重に」と言い含められていたから、余計に。

「そんな……ことはできません」
「なぜだ? 相手は真剣勝負を挑んできてるんだ、手加減なんかしたら 失礼 じゃないか」
 ニヤリ、と笑う奏江に真広はそういうものだろうか、と不思議に思ったが――。

「真広は僕たちの世界のことを知らない。そうだろう?」
 コクリ、と頷く。
 人の世の中の、特に子どもだけでつくられた世界を真広は知らない。


「 僕たちの世界では殴りあうことで生まれる信頼も、あるんだ 」

 たまにだけどね。

 と、奏江はうそぶいた。

  >>>やくそく2。終了。
 適当なことを言って、真広をイケナイ道に誘導する奏江の図(笑)。
 って、コトで今後、真広は手加減を知りません。本気を出すことが礼儀だと思ったら、トコトン出すのが真広ですから。

 拍手コメントへのお返事は、明日する予定です!
 ありがとうございます~。

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大阪府
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たぶん、そのうち無色。
趣味:
主に恋愛小説の執筆ととめどない落書き。あと、HP運営。
自己紹介:
恋愛小説やら絵やら書いて、裏と表のHPを運営中。ココでは日々のこと、本編の番外か先行掲載を目的にツラツラ生息していこうかと思っています。
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こめんと
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