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裏表一体、日々のこと。
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 「高伊〔たかい〕」の屋敷は、文明が開けたとは言え、まだ珍しい西洋の様式を倣ったものだった。
 大きく広がった玄関。下履きのまま歩けるようになった板張りの床には、朱色の布……と言っても毛羽立った感触は、今までに馴染みのないふわふわとした感覚を真広に与えた。
(これは、どういう代物なのだろう)
 部屋を幾つか通り過ぎる間に、過ぎった疑問は多すぎて物珍しく辺りをキョロキョロと眺めてしまう。
 天井にぶらさげられた、大きな灯篭らしき物体を仰いで、立ち止まる。
 ひとつの大きな扉に案内した綾女は、そこにある金具に触れてコトコトと鳴らす。金具の形状はいかつい顔をした、イヌだろうか。
 それにしては、首回りがふさふさしていて、どことなくネコにも似ているが……。

「旦那様、綾女にございます」

 扉の向こうからほどなく許諾の言葉が返ってきて、綾女は扉を開けた。
 ギギッ、と低いしなりを帯びて広がった視界の向こうには、一人の男性が……やはり、あまり見慣れない西洋の黒い服をまとって立っていた。
「その子か――」
「はい……」
「真広〔まさひろ〕と申します。高伊様」
 真広が礼儀正しく頭を下げ、「よろしくお願いいたします」と挨拶したのを見て、屋敷の主人らしい彼は静かに笑った。
「シッカリした子だな。しかし、夜江子〔やえこ〕のこともある……幼い子に頼ってよいものか、もちろん君のことは信頼しているが」
 綾女に向けて、言う。
 彼女は微笑んで、答えた。
「旦那様、ご心配には及びませんわ。真広は確かにまだ 幼い身 ですが、鬼を視〔み〕る眼に長けていますの。潜在的な能力も高い上に、屋敷の内部に先入観もないほうが……此度の一件は解決しやすいと存じます」
「……君がそういうなら、そうなのだろうが」
 まだ、彼の方は歯切れが悪い。

「奥様がお亡くなりになったのは、十中八九 の仕業に間違いありません。が、それが私にはどこの者の仕業なのか、判断することができないのです……奥様の体に残った鬼の残滓を追いましたが、混沌としていて。これは、私〔わたくし〕と近しい者が関係していると考えた方がよろしいかと存じます。ひいては、この屋敷に近しい関係の者だと思いますわ……とても、辛い事実〔こと〕ですが」

「うむ……覚悟はしておる」
 重々しく頷いて、彼は綾女のそばに立つ水干姿の少年に歩み寄って、頭を手のひらで撫でた。
「真広〔まさひろ〕、無理はしなくていい。そうだな、息子の友だちになってやってくれ……ちょうど、年頃が近いのだ」
「友だち……でございますか?」
「そうだ。あやつは今、母をなくして荒れておるゆえ扱いにくいかもしれんが、まあ、仲良くしてくれればありがたい」
「わかりました」
 こくり、と素直に頷いた真広に高伊清信〔たかい きよのぶ〕は嬉しそうに目を細めて、「よろしく頼む」と小さな彼の手をとって、包んだ。

「息子の名は、奏江〔かなえ〕。今はおそらく、母の亡骸のそばに――」



「イヤだっ、イヤだーっ! 母上は死んではおらぬ。焼くなどと言うなっ!!」
 ベッドに眠る母に縋りつく少年は目に涙をいっぱいにためて、近づこうとする侍女たちを追い払う。
 死に化粧を施したい侍女たちは混迷し、「奏江さま、どうか……」「後生でございます」と周囲を右往左往しては、諭そうと試みる。
 けれども、彼女たちとて彼の心が分からないではない。
 幼くして母を亡くした子とは、不憫であるがゆえに強く接することはできなかった。

「ねえ、母上。イヤです……起きてください。僕は、そんなに 悪い子 でしたか?」

 ぼたぼた、と大粒の涙を冷たくなった母の白い頬に落として、彼は唇を噛んで呟いた。

  >>>つき と おに(冒頭2)。メモ終了。
 昨日の続き。
 ようやく、主の方が出てきましたが……まだ、会ってないし(笑)。
 子どもの使う言葉の処理をまだ、思案中です。もう少し、平仮名を多くした方がいいかしらねえ。
 子どもを登場させると、いつもこんなことに頭を悩ませていたり。

 次の場面は、まずは綾女さんの言葉を入れたいなあ。
 今回、そこまで入れようと思ったけど長くなったので諦めました。もう、旦那様出張りすぎ!

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