裏表一体、日々のこと。
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ぐるり、と茶室を見渡した真広〔まさひろ〕は、奏江〔かなえ〕のほうにふたたび向き直ると ふわり と笑った。
「よい、茶室ですね」
その指に赤い布を握りしめた奏江は、フイとその見透かすような静かな童子から目をそらして「まあな」と答えた。
つれない返事のように演じながら、その心中や、案外に悪い気はしていない。
ふっ、と唇を緩めると目を遠くを見遣るように細める。
「母上が、お好きだったのだ。ここにある茶器はほとんど母上が選んだものゆえ……っ」
思い出すと、すぐそこに母の姿が浮かぶ。
赤い布が、はらりと手から滑って畳に落ちる。
拾おうと思うのに、視界は涙が邪魔をしてほとんど歪んで見えない。
代わりに、すぐそばにいた彼が屈んでそれを拾った。
「これは?」
「母上の……大切にされていた、ふくさだ。病床に入ってからは、ここに来ることもままならなくなった、から……そればかり、触っておられた……」
「そうですか」
不意にこぼれた涙を見せまいと、彼から顔を背けていた奏江には真広の表情をうかがい知ることはできなかった。
つい、と注意深く赤い艶のある布を眺めると、口だけで言葉を紡いでフッと息を優しく吹きかける。
さりげなく、それを奏江へと返すと、「大切に」と握らせた。
「人は死んでも、いなくなるワケではございません。大切に想えば、残る……どういう形であれ、存在しつづけるものです」
「そうだろうか……母上は」
ぐい、と袖口で涙を拭った少年は、丸い窓の格子から外を眺めた。
「生き返らない、のであろう?」
「はい」
それが、世の理〔ことわり〕。
「僕が 願った せいだ。母上が病気ならいいと……そばにいてほしいと邪〔よこしま〕なことを考えた。母上はきっと、僕を恨んでいる」
「そんなことは、ありませぬ」
静かに背中からの声が言って、キッパリと否定した。
「ここには、夜江子様の慈愛が溢れております。庭も屋敷も、この部屋の茶器まで……お気づきになられませんか?」
「……そうなら、いいとは思う」
だが、奏江に感じられるのは母を失った虚無感だけだった。
「いいえ。そうだと、信じてください。母親が子どもを愛さないわけがない……疑うなど、母親が一番 悲しむ ことでございます」
「おまえに 何が 分かる?」
「何も――ただ、昨夜の鬼の 正体 がわかりました」
月をただ仰ぐ哀れな 子鬼 。
掻き消える瞬間まで、届くはずのないそれに母の面影を重ねていたのかも、しれない……。
>>>つき と おに(冒頭5)。メモ終了。
とりあえず、冒頭はここまで。
まだ、イロイロ秘めたことがあるのですが……それはまた、次の機会に。
ちなみに、まだまだ子ども時代続きます。子ども、と言っても10歳前後だと思うんだけど。
にしては、喋り口調がジジくさい(←こらこら)。
「よい、茶室ですね」
その指に赤い布を握りしめた奏江は、フイとその見透かすような静かな童子から目をそらして「まあな」と答えた。
つれない返事のように演じながら、その心中や、案外に悪い気はしていない。
ふっ、と唇を緩めると目を遠くを見遣るように細める。
「母上が、お好きだったのだ。ここにある茶器はほとんど母上が選んだものゆえ……っ」
思い出すと、すぐそこに母の姿が浮かぶ。
赤い布が、はらりと手から滑って畳に落ちる。
拾おうと思うのに、視界は涙が邪魔をしてほとんど歪んで見えない。
代わりに、すぐそばにいた彼が屈んでそれを拾った。
「これは?」
「母上の……大切にされていた、ふくさだ。病床に入ってからは、ここに来ることもままならなくなった、から……そればかり、触っておられた……」
「そうですか」
不意にこぼれた涙を見せまいと、彼から顔を背けていた奏江には真広の表情をうかがい知ることはできなかった。
つい、と注意深く赤い艶のある布を眺めると、口だけで言葉を紡いでフッと息を優しく吹きかける。
さりげなく、それを奏江へと返すと、「大切に」と握らせた。
「人は死んでも、いなくなるワケではございません。大切に想えば、残る……どういう形であれ、存在しつづけるものです」
「そうだろうか……母上は」
ぐい、と袖口で涙を拭った少年は、丸い窓の格子から外を眺めた。
「生き返らない、のであろう?」
「はい」
それが、世の理〔ことわり〕。
「僕が 願った せいだ。母上が病気ならいいと……そばにいてほしいと邪〔よこしま〕なことを考えた。母上はきっと、僕を恨んでいる」
「そんなことは、ありませぬ」
静かに背中からの声が言って、キッパリと否定した。
「ここには、夜江子様の慈愛が溢れております。庭も屋敷も、この部屋の茶器まで……お気づきになられませんか?」
「……そうなら、いいとは思う」
だが、奏江に感じられるのは母を失った虚無感だけだった。
「いいえ。そうだと、信じてください。母親が子どもを愛さないわけがない……疑うなど、母親が一番 悲しむ ことでございます」
「おまえに 何が 分かる?」
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主に恋愛小説の執筆ととめどない落書き。あと、HP運営。
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恋愛小説やら絵やら書いて、裏と表のHPを運営中。ココでは日々のこと、本編の番外か先行掲載を目的にツラツラ生息していこうかと思っています。
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