Moonlight Piano H and C:rhapsodie(1)

　「Ｈ＆Ｃ企画」のピアノ短編（予定）の続きです。
　いつまで続くのか？　は、私にも予測がつきません。んー、オチが出来るまで……カモ(^^ゞ。
　彼の恩師と彼とのやりとりは、結構楽しいので好きなのですが……今回の話はソレが書きたいがために「ハロウィン」にしたと言っても過言ではありません。
　彼女は、とある一件に関して彼に負い目、というか、一応の責任を感じているのだろうと思われます。
　なので、コレは彼女なりの彼に対するプレゼントみたいなモノだと思います（ある一件の時のギャラも二倍程度払っているハズですが）。
　次の場面には、親子の再会が！
　書いてる本人がかなり興味津々です（笑）。うーん、彼はどんな感じなのかなあ？　と。
　オオカミ少年（←なんか違っ！）とシスターと……まだ、書いてないので彼の方は未定です。

　以下、「Ｈ＆Ｃ企画」ピアノ番外の第二回。
　回想場面オンリー。

――　Moonlight Piano～H and C:rhapsodie(1)～　――

　葉山貴水〔はやま　たかみ〕――「千住貴水」として世界を飛び回っている有名なプロピアニストで、なつきの最愛の男性〔ひと〕であり、希の父親でもある。
　その姿は幼少の頃の出来事によって醜く爛れた皮膚を持ち、深く澄んだ闇の瞳を持つ心優しい異形。
　誰からも目を背けられながら、圧倒的な才能が聴く人を惹きつけてやまない。彼のピアノは誰よりも鮮やかな 感情 を奏でるのに……その実生活では、不器用な言葉しか知らない人だった。


　　　　　***　***


「じゃあ、行ってきます」

　最後に会ったのは、半年前だ。
　ほぼ半年のコンサート・ツアーに出掛けたのだから、会えない覚悟は出来ている。けれど、それでも彼は一度は日本の公演もあるからと笑ってなつきを慰めた。実際、戻るつもりにしていたのだろうし、なつきだって楽しみにしていた。
『センジュ、後生デス。助けてください！』
　という、彼の恩師の呼び出しさえなければ。
　実際になつきは彼女、アンリ･サキ･シューリッツがどのように彼を呼び出しているのか、知らない。確認したこともないし……ただ、その呼び出しを断ろうとしている彼がひどく困惑しているのが分かるから、送り出してしまうのだ。
「いいわよ、行ってきたら？　あの人の頼みじゃ断れないんでしょ」
『うん、ごめん……なつきさん』
　強がって突き放した言い方をしてしまうなつきを、貴水は知っている。電話の向こうで申し訳なさそうに謝って、『ありがとう』と他人行儀に言った。
　「好きだ」とも「愛してる」とも、無口な彼はあまり口にしない。
　そういう仮初めの愛情表現が得意ではないのだ。
『なつきさん、こっちに来ない？　希も連れて』
　彼から罪滅ぼしの申し出があったのは、ツアーが終わる前日だった。
「え？」
『シューリッツ先生がそうしろって言うんだ。面白いイベントがあるらしくて……』

　女心を解さない貴水の電話越しの苦笑いに殺意さえ感じて、なつきは電話を乱暴に切ったことを覚えている――。

　あのあと、「彼女」の方から直接電話があって主旨を教えてもらったが、やはりなつきには面白くなかった。
『期待してイイですよ、サヨハーラ。センジュの方は ワタシ に任せてください』
　やけにご機嫌なアンリの声はボールのように弾んでいた。相変わらずの年齢を感じさせない若々しさだ。
「……楽しそうですね」
『Ja！　楽しいデスよ？　早くコチラに来てください』
　ビックリするような仮装をしてネ、と陽気に誘った彼女に悪気はない。そう、分かっていても感情が複雑になるのはどうしようもない 条件反射 のようなものだと、なつきは諦めるしかなかった。

「解かりました」

　　>>>続きます。